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大阪地方裁判所 昭和36年(行)48号 判決 1961年12月02日

大阪市大淀区豊崎東通三丁目六三番地

原告

株式会社セントラル工芸製作所

上代表者代表取締役

井村伸吾

被告

淀川税務署長 由本恵

指定代理人検事

山田二郎

上同法務事務官

大森国章

上同大蔵事務官

中川利郎

上同

同 上野旭

上同

同 堀裕次

上当事者間の昭和三六年(行)第四八号過払税金返還請求事件について、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告代表者は、「被告は原告に対し金五三、二四〇円およびこれに対する昭和三三年七月二日より完済に至るまで年五分の割合による金利を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

原告は肩書地において各種家具の製造、販売をしているものであるが、たまたま被告から物品税課税物件である家具類を正規の帳簿に記載していない旨の税法違反けん疑を受け、一方的に原告の昭和三一年一一月より昭和三二年四月までの物件額合計金三四五、八〇〇円と認定され、これに対する課税額金六八、一六〇円の強制納付方を通知された。原告は右決定に不服ではあつたが、とりあえず昭和三三年七月一日までに上課税額として、金六八、三〇〇円を支払うと同時に、これに附随する間接税の犯則者納付金九、〇〇〇円の支払いも了した。しかしながら、他方において間接税法の罰則として税金と同額の罰金に処せられる建前になつているところ、当時検察庁の取調べの結果、原告の昭和三一年一一月より同三二年四月分までの違反金額は金二一九、二〇〇円から原告の申告済みである金四〇、四〇〇円を差し引いた金一七八、八〇〇円、これに対する課税額は金二四、〇六〇円と確認され、原告は昭和三五年一〇月一二日大阪簡易裁判所の略式命令により金二四、〇六〇円の罰金に処せられた。してみると、原告の前記期間における正当な物品税額は金二四、〇六〇円に過ぎないのであつて、被告の一方的決定により原告がさきに納付した物品税額金六八、三〇〇円、犯則者納付金九、〇〇〇円の合計七七、三〇〇円は被告に対し過払いとなるので、その差額の返還を求めると共に、前記最納付日の翌日である昭和三三年七月二日より上過払金返還済みに至るまで民法所定の年五分の割合による損害金の支払いを求める。

被告の本累前の抗弁に対し、原告は当初国を被告とし、その代表者を淀川税務署長と表示して本訴を提起したのであるが大阪地方裁判所の指示により淀川税務署(長とあるのは抹消もれ)と訂正したもので、被告の表示に誤りはない。

被告の本案に対する答弁ならびに主張に対し、被告は、被告の昭和三二年一一月九日付決定について、原告が所定期間内に再調査ないし審査の請求をしなかつたので確定しており、上確定した納付義務に従つて納付した税金の一部に過納金があるとして返還を請求することは理由がないというが、原告が再調査ないし審査の請求をしなかつたのは、当時所轄淀川税務署間接税課が全く原告の陳弁を聞かないで一方的な決定を行なつたため、再審査の請求をしたところでその効果は期待できないと思料し、直接裁判所で黒白をつける以外にないと考えたからである。また前記決定にもとづく税額を原告が全額納付したのは、もし原告において納付を却絶すれば被告は原告の家財道具を差押え、直ちにこれらを自動車で引揚げかねない態度を示したためで、決して上決定による税額の納付義務を認めたものではない、と述べた。

被告指定代理人は、本案前の答弁として、主文同旨の判決を求め、その理由として、本訴は原告が過納と考える税金の返還を求めるものであるが、このような訴は権利主体である国を被告とすべきであるから、本訴は被告を誤つた不適法な訴である、と述べ。

本案に対する答弁として、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁ならびに主張として、

原告主張の請求原因事実中、原告が納税告知を受けた物品税は昭和三一年一一月分から昭和三二年四月分までではなく、昭和三一年一一月分から昭和三二年六月分(同年五月分を除く)までのものであり、その他原告は物品税の脱税を計つたことはなく、前記期間における物品税について過払い分があるとする点は争うが、その余の事実は認める。

なお、原告が、前記期間における物品税として金六八、一六〇円の納付義務を負担していることは、右税額を認定した被告の昭和三二年一一月九日付の決定(その頃原告に通知)に対して原告が所定期間内に再調査の請求をしなかつたことにより確定してしまつているのであるから、上確定した納付義務に従つて納付した税金の一部に過納金があるとしてその返還を請求することは失当である。と述べた。

理由

原告は、被告が決定した原告の昭和三一年一一月より昭和三二年四月分までの物品税額が原告主張の範囲において過大であるとして、既に納付済の金員中、右過払いとする部分の返還を被告に対して訴求しているが、本訴は、行政事件訴訟特例法第二条に規定する行政庁の違法な処分の取消または変更を求める訴(抗告訴訟)もしくはこれに準ずる訴でないことは明白であるから、右の訴の場合以外に独立の当事者能力を有しない行政庁を相手方として訴を提起することは許されないものであるところ、原告は行政庁である淀川税務署長を相手方として本訴を提起しており、かかる訴は明らかに法律の許容しないところであつて、不適法として却下を免れない。

なお、原告は、当初国を被告として本訴を提起したところ、当裁判所係官の指示により、被告を淀川税務署に訂正するつもりで誤つて淀川税務署長と表示したものである旨主張するが、民事訴訟においてはたして誰が当事者であるかは、訴状の記載内容を客観的、合理的に解釈、判断して確定すべきものと解せられるところ、本件訴状においては当事者の表示として淀川税務署長と明示されており、他の記載内容を斟酌しても原告が被告として上淀川税務署長以外の者を対象としていると認めるべき事情は窺えないから、本件訴訟における被告は上淀川税務署長と解する(もつとも被告が淀川税務署であつたとしても、同署はいわゆる行政官署であつて当事者能力を持たないことは同様であるから、前項の結論に相違はない)、また、原告主張のような被告の表示変更を当裁判所係官が指示するごとき事態は通常予想できないことではあるが、かりに原告主張のような指示がなされ、原告がたまたま同指示によつて訴状の被告の記載を変更する処置をとつたものとしても、そのこと自体は当事者の確定と直接の関係がないことはいうまでもない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金田宇佐夫 裁判官 阪井昱朗 裁判官 浜田武律)

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